出張の終わりに登った雲取山

過去の山行

※この山行は過去の記録(2022年7月3日)のものです。


雲取山とは

東京都・山梨県・埼玉県の県境にそびえる標高2,017mの山。
東京都の最高峰でありながら、奥多摩の奥深い自然に包まれ、静けさとぬくもりをあわせ持つ山です。
奥多摩からの道は整備が行き届いており、四季を通じて多くの登山者に親しまれています。


概要

2022年の春から、私は大阪から東京・福生への長期出張生活を送っていました。
週のはじめに上京し、週末に大阪へ戻る生活。
慌ただしい日々のなかで、ふと「せっかく東京にいるのなら、一番高い山に登ってみよう」と思い立ちました。

選んだのは、東京都最高峰の雲取山。
夏の盛り、日帰りソロ登山。装備はスーツケースに入る分だけ。
ザックの中にはレインウェアと軽食、最低限の水だけ。
気軽なつもりで出かけたはずが、心に深く残る山行となりました。


日帰り(7/3・日)

行動スケジュール

7:35 スタート地点 → 7:36 鴨沢バス停 → 7:55 丹波山村営駐車場 → 8:00 小袖登山口 → 9:13 堂所 → 9:57 七ツ石小屋テント場 → 10:33 七ツ石山 → 11:18 五十人平野営場 → 11:22 ヨモギノ頭 → 11:52 小雲取山 → 12:10 雲取山頂 → 15:47 鴨沢バス停(ゴール)
(合計 8時間12分・距離 23.4km・登り 1,937m / 下り 1,935m・休憩 36分)


鬼滅ののぼりと、はじまりの道

始発で奥多摩駅へ。バスに揺られて鴨沢へ着いたのは、まだ朝の空気が冷たい時間帯でした。
登山口で身支度を整えていると、目の前に鬼滅の刃の柄をしたのぼりがひらひらと風に揺れていました。
特別な意味も知らずに写真を撮ったけれど、あとで調べてみると、このあたりが作品の舞台のひとつだと知りました。

偶然のようで必然のような出会いに、少しだけ背中を押された気がしました。


七ツ石山へ、夏の森の中を

小袖登山口からは、よく整備された登山道が続きます。
朝の森はしっとりと湿り、木漏れ日が道を照らしていました。
標高を上げるたびに、蝉の声が遠のき、風の音だけが近くなる。

七ツ石小屋を過ぎたころ、傾斜がきつくなり汗が滝のように流れます。
けれども、久しぶりの山の空気が心地よく、ただ黙々と歩を進めました。
やがて10時半ごろ、七ツ石山の山頂に到着。

霞の向こうに稜線が連なり、遠くの空に夏の雲が浮かんでいました。
静かな風が頬を撫で、ようやく“山に来た”という実感が湧きました。


雲の流れる稜線、そして山頂へ

七ツ石山から先は、五十人平、ヨモギノ頭、小雲取山と緩やかに続く稜線。
標高が上がるごとに、空気が冷たくなり、動きを止めるとすぐに体が冷えます。
夏の山とは思えない涼しさ。まるで季節が一歩先に進んでいるようでした。

やがて灰色の雲が広がり、霧雨が頬を打つ。
それでも足は止まりませんでした。
避難小屋を過ぎ、木々の切れ間に開けた広場が見えてくると、そこが目的地。

12時10分、雲取山山頂に到着。

霧に包まれた山頂は静かで、遠くの音も消えていました。
手がかじかんでシャッターを押すのも一苦労でしたが、その一枚にこの日の空気がすべて詰まっていました。


雨の帰り道、傘の温度

下山を始めて間もなく、雨脚が強まりました。
七ツ石山を過ぎたあたりで傘を広げ、ゆっくりと下っていきます。
レインウェアにこもる熱気よりも、傘の下を流れる風のほうが心地よかった。
このとき初めて、「登山に傘も悪くないな」と思いました。

アスファルトの道に出るころには、靴もズボンもすっかり濡れていました。
けれど、不思議と清々しい気持ち。
バス停の屋根の下で濡れた荷物を片付けながら、雨の匂いを胸いっぱいに吸い込みました。
静かな満足感に包まれながら、山行は終わりました。


まとめ

仕事に追われる毎日のなかで、
この日だけは、時間をゆっくりと感じることができました。
山頂の霧も、雨に濡れた森の匂いも、
あの静けさの中で吸い込んだ空気の冷たさも、今でも鮮明に覚えています。

あとで知ったのですが、雲取山は鬼滅の刃の舞台のひとつ。
登山口ののぼりが、まるで「ようこそ」と迎えてくれたように思いました。

登山の翌日が、東京での最後の仕事の日。
足がプルプルして、立ちっぱなしがつらくて、
打ち合わせの合間に何度も椅子に座って休みました。
けれど、それすらもどこか誇らしく、
「東京の山も、これで締めくくりだな」と、心の中で静かに呟きました。

短い東京生活の終わりに、心に残るひとりの山。
あの雨と風と静けさは、今でも忘れられません。

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