黒戸尾根で秋をあげる—七丈のテント場へ、甲斐駒1日目

山行

1. 甲斐駒ヶ岳とは

甲斐駒ヶ岳(2,967m)は南アルプス北端にそびえる端正な花崗岩の峰。
白く滑らかな岩肌と鋭い稜線が印象的です。

東面の黒戸尾根は長大で険しい名ルート。
祠や石碑が点在し、信仰の山らしい静けさが漂います。

2. 概要

夜行バスで小淵沢へ。
早朝タクシーで竹宇駒ヶ岳神社の登山口へ向かいました。

2日行程の初日、七丈小屋のテント場まで黒戸尾根を登り、ツェルト泊
天気は朝から曇り、のち小雨。10月ながら湿気が多く、登るほどに蒸し暑さが増す一日でした。

序盤は樹林の急登で、登り始めて1時間、ようやく一合目
危険箇所らしい危険箇所は少なく、**露岩の痩せ尾根「刃渡り」**がいちばん緊張する場面でした(慎重に通過すれば問題なし)。

五合目から先は鎖と梯子が連続する核心部。
濡れた鉄と岩に気を抜けない時間が続きます。

テント場には正午過ぎに到着し、一番乗りでした。

3. 1日目(10/11・土)

06:55 竹宇駒ヶ岳神社(登山口) → 09:36 前屏風ノ頭 → 11:51 七丈第一小屋 → 12:03 七丈第二小屋 → 12:04 七丈小屋テントサイト(泊)
(合計 5時間14分・距離 8.1km・登り 1797m / 下り 163m・休憩 0分)

登山口の鳥居に手を合わせ、湿り気を帯びた森の中へ。
曇り空の下でも空気は生ぬるく、10月とは思えない蒸し暑さ。
木の根と段差をひとつずつ拾い、テンポを崩さず高度を稼ぐ。
やっと息が落ち着いたころ、標柱が現れて一合目。長い尾根の序章がようやく開いた気がしました。

樹林は静かで、足裏の感覚が頼り。
やがて笹と露岩が混じり、痩せた尾根に乗ると刃渡り
露出感はあるものの、三点支持を守って落ち着いて通過。
視界はガスに包まれ、音だけが近くなる不思議な時間でした。

斜度は落ちず、段差の大きなステップが続きます。
汗は止まらず、袖をたくし上げてピッチを一定に。
濡れた根と岩を踏み換え、四合目。標識に触れて呼吸を整えました。

五合目からは鎖と梯子の連続
鉄は冷たく、靴底はしっとり。鎖は引っ張らず、体を岩に寄せて足で押し上げる
踏み段の奥を拾い、踵を落としきらない――その小さな積み重ねで、確実に高度が上がっていくのがわかります。

前屏風ノ頭に近づくほど、ガスは濃くなりました。
基本は雲海の上で、下界の町並みは終始見えません。
時おり雲が薄くなると、手前の紅葉だけが鮮やかに浮かび上がる。
赤や黄が霧の白に滲んで、とてもきれいでした。

七丈第一小屋の屋根がぼんやり現れ、テント場の受付をすます。
水を足してレイヤーを整え、第二小屋へ。
霧は切れず、世界は白と岩の輪郭だけ。
それでも足取りは乱れず、視界の端にテントサイトの張り綱が見えた瞬間、肩の力がふっと抜けました。

正午すぎ、七丈小屋テントサイトに到着。
この日はツェルトを使用。締まった地面に石で補強し、風下に入口を向けて設営。
雲海の縁が近く、サイトからも白い海が波打つように流れていました。

濡れ物を前室に分け、温かい飲み物で体の芯を戻す。
小雨はときどき、ツェルトを細かく叩く程度。
装備を整え、明日の山頂までの行程を頭の中でなぞりながら、静かな午後を過ごしました。

夕方になっても小雨はやまず、湿った白さがサイトに居座ったまま。
日没前に簡単な夕食を済ませ、出発準備をひととおり整える。
ヘッデン・水・行動食・防寒を手元に寄せ、体が冷える前にシュラフへ。
翌朝は暗いうちに出発して、山頂で御来光をねらう段取りで早めに眠りにつきました。

4. まとめ(1日目)

黒戸尾根の急登はやはり厳しく、一合目までの長さで心が試され、
五合目以降の鎖・梯子地帯で体が試される――そんな配分でした。

終日雲海の上にいて、町並みは見えず。
視界が限られたぶん、足裏と呼吸のリズムが際立つ一日。
雨の中で張ったツェルトに身を預け、静かな夜に沈んでいく。
濃い初日が、明日へと続いていきます。

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