夏山の計画を立てている。
地図を広げて、どこから入って、どこで泊まって、どこへ下りるかを考える。
この時間はけっこう好きだ。
まだ山に行っていないのに、少しだけ稜線を歩いているような気分になる。
上高地から涸沢へ入って、北穂へ上がって、大キレットを越えて槍ヶ岳へ。
そこから表銀座を歩いて、中房温泉へ下りる。
地図の上で線を引くだけなら、山はどこまでも自由に見える。
でも、実際に計画を立て始めると、すぐに現実に戻される。
山小屋とテント場の予約だ。
今回は、少し愚痴を書きたい。
予約制が悪いと言いたいわけではない。
山小屋やテント場を維持するためにも、混雑を抑えるためにも、必要な仕組みなのは分かる。
分かる。
分かるのだけど、テント泊で縦走しようとすると、やっぱり少ししんどい。
行きたい山より先に、泊まれる場所を見る
自分は基本的にテント泊が好きだ。
荷物は重くなる。
設営も撤収もある。
雨が降れば面倒だし、寝心地も小屋泊ほど快適ではない。
それでも、自分の寝床を持って歩ける安心感がある。
山の中で、少しだけ自分の場所を作れる感じが好きなのだと思う。
だから夏山の計画でも、まずはテント泊を前提に考えることが多い。
ただ、最近は「テントを持っていけば何とかなる」とは言いにくくなってきた。
テント場も予約制のところが増えた。
山小屋も当然のように予約が必要になった。
登山を始めた頃は、テント泊といえば早いもの勝ちの印象が強かった。
早く着けば張れる。
遅くなれば場所が悪くなる。
混んでいれば、周りに気を使う。
それはそれで大変だった。
でも、その大変さはまだ山の中で完結していた気がする。
今は、山に入る前の時点で、すでに泊まれるかどうかが決まってしまう。
行きたい山より先に、泊まれる場所を見る。
その時点で、少しだけ自由さが減ったように感じる。
予約開始時間は、だいたい仕事中に来る
予約制で地味に困るのが、予約開始時間だ。
山小屋やテント場の予約開始時間は、だいたい平日の午前中にある。
普通に仕事をしている時間だ。
もちろん、仕方がない。
山小屋側にも都合があるし、予約を管理するには決まった時間が必要なのも分かる。
でも、行く側としてはなかなか難しい。
朝から仕事をしていて、昼休憩になってから予約状況を見る。
すると、もう埋まっている。
ああ、やっぱりそうかと思う。
行きたい日。
泊まりたい場所。
ちょうど良い行程。
そのどれか一つが崩れるだけで、計画はかなり変わる。
単独ならまだ調整しやすい。
日程をずらす。
ルートを短くする。
泊まる場所を変える。
最悪、別の山にする。
でも複数人で行くとなると、もっと大変だと思う。
全員の休みを合わせて、交通を合わせて、装備も体力も考えて、そのうえで予約を取る。
一人なら妥協できることも、複数人だと簡単には変えられない。
山に行く前から、すでに難しい。
毎日キャンセル待ちを見るようになる
予約が取れなかったからといって、すぐに諦められるわけでもない。
もしかしたら空きが出るかもしれない。
キャンセルが出るかもしれない。
直前になれば動きがあるかもしれない。
そう思って、毎日予約状況を見るようになる。
朝見て、昼に見て、夜にも見る。
山の天気を見るように、予約画面を見る。
これはこれで、少し変な話だと思う。
山に行きたいだけなのに、毎日スマホで空き状況を確認している。
地図を見ている時間より、予約画面を見ている時間のほうが長い日もある。
本当は、もっと単純に山へ行きたいだけなのだ。
でも現実には、泊まる場所が決まらないと計画が立たない。
泊まれないなら、その山には行けない。
歩ける体力があっても、装備があっても、休みがあっても、泊まる場所がなければ成立しない。
夏山の計画は、思っている以上に予約に左右される。
その日の体力で、泊まる場所を変えにくくなった
テント泊の良さは、少しだけ山の中で自由に動けるところにあった。
今日は思ったより疲れたから、このテント場で早めに休もう。
逆に、まだ元気で時間もあるから、次のテント場まで進もう。
天気が崩れそうだから、今日は無理せず停滞しよう。
そういう判断ができるのが、テント泊の良さでもあったと思う。
もちろん、昔から何でも自由にできたわけではない。
テント場には場所の限りがあるし、水の問題もある。
早く着いたほうがいいし、遅くなれば張る場所に困ることもある。
それでも、その日の体力や天気を見ながら、山の中で判断する余地は今より大きかった。
でも予約制になると、そこが少し難しくなる。
今日泊まる場所は、もう事前に決まっている。
疲れたから手前で泊まる、ということがしにくい。
元気だから先へ進む、ということもしにくい。
天候が悪いから停滞する、という判断も簡単ではない。
もちろん安全を最優先にすれば、無理に予約通り進む必要はない。
そこは絶対に間違えてはいけない。
でも、ひとつ予定が狂うと、その後の予約も全部ずれてしまう。
特に何日にもまたがる縦走では、これがかなり重い。
1泊目がずれる。
すると2泊目もずれる。
3泊目も変わる。
下山日も変わる。
帰りの交通も変わる。
そうなると、山の中で判断しているはずなのに、頭の片隅ではずっと予約のことを考えることになる。
「今日はここで止まりたい」ではなく、
「でも明日の予約がある」になってしまう。
この感覚は、テント泊の自由さとは少し相性が悪い。
天気が悪いときほど、本当は予定を動かしたい
縦走で一番怖いのは、予定通りに進むことを優先してしまうことだと思う。
天気が悪い。
風が強い。
視界が悪い。
体が重い。
そういう日は、本当なら無理せず停滞したり、短く切ったりしたい。
でも予約が先まで決まっていると、どうしても考えてしまう。
今日動かないと、明日の予約がずれる。
明日がずれると、その次もずれる。
最終日の下山もずれる。
帰りの交通も変わる。
もちろん、だからといって無理に進むべきではない。
山では予定より安全を優先するべきだ。
ただ、予約で予定が固定されていると、安全側に倒す判断の心理的な重さが増える。
これはけっこう大きい。
天気が悪いから停滞する。
疲れたから早めに切る。
元気だから少し先へ進む。
本来、縦走ではそういう判断をしながら歩く。
でも、宿泊予定が全部予約で固定されていると、その場で判断する余白が少なくなる。
山では予定通りにいかないことのほうが多い。
天気も変わる。
体調も変わる。
足の調子も変わる。
なのに宿泊だけが予定通りであることを求められると、少し苦しい。
計画の時点で、行けない山が増えた
昔のほうが良かった、と簡単に言いたいわけではない。
予約制には予約制の良さがある。
混雑を抑えられる。
山小屋側も人数を把握できる。
泊まる側も、予約が取れていれば安心できる。
特に人気の山域では、必要な仕組みなのだと思う。
ただ、テント泊をする側としては、少し寂しさもある。
登山を始めた頃は、行きたい山を決めて、装備を用意して、早めにテント場へ着けば何とかなるという感覚があった。
今は違う。
行きたい山があっても、予約が取れなければ行けない。
ルートとしては歩けても、計画としては成立しない。
体力や技術の前に、予約の段階で諦める山が出てくる。
これはけっこう大きい変化だと思う。
山で撤退するなら、まだ納得できる。
天気が悪い。
体調が悪い。
時間が足りない。
そういう理由なら、山の中で判断した結果だと思える。
でも、計画の時点で行けない山が増えるのは、少し違う寂しさがある。
それでも、現実を見て計画するしかない
今年のお盆も、北アルプスの縦走を考えている。
上高地から涸沢、北穂、大キレット、槍ヶ岳、表銀座。
地図で見ると、本当に綺麗につながる。
歩きたい。
かなり歩きたい。
でも、実際に計画を組み始めると、最初に見るのは稜線ではなく、泊まれる場所になる。
ここに泊まれなかったら、翌日の行動時間が伸びすぎる。
このテント場が厳しければ、ルートを変えるしかない。
予備日をどうするか。
下山後の交通は間に合うか。
水はどこで取るか。
そういうことを一つずつ考えていくと、山行計画は少しずつ地味になる。
でも、その地味な部分を詰めておかないと、山の中で困る。
自分は長く歩きたいほうだと思う。
1日8時間から10時間くらいは行動したい。
でも、計画の時点で無理を詰め込みすぎると、山の中で選択肢がなくなる。
泊まる場所。
水の量。
予備日。
撤退ルート。
下山後の交通。
こういうものを考えていると、夏山の準備は面倒くさい。
でも、その面倒くささも含めて、今の登山なのだと思う。
予約制には理由がある。でも少し寂しい
山小屋やテント場の予約を見ていると、山の自由さが少し減ったように感じることがある。
行きたいときに行く。
歩けるところまで歩く。
その日の体調や天気で決める。
そういう登山が好きだから、予約で計画が固定されていく感じには、まだ少し慣れない。
ただ、予約がすべて悪いとも思っていない。
山小屋やテント場が混みすぎれば、現場は大変になる。
無理な人数を受け入れれば、安全面でも問題が出る。
山小屋が続いてくれなければ、そもそも歩けなくなるルートもある。
だから、必要な仕組みなのは分かる。
分かるけれど、少し寂しい。
そのくらいが、今の正直な気持ちだ。
予約で一番変わったのは、山の中での余白かもしれない
予約制が増えたことで、一番変わったのは「山に行く前の手間」だけではないと思う。
もちろん予約は面倒だ。
仕事中に予約開始時間が来る。
昼休憩に見たら埋まっている。
毎日キャンセル待ちを見ることになる。
複数人なら、さらに調整が大変になる。
でも、それ以上に大きいのは、山の中での余白が減ったことだと思う。
疲れたら手前で休む。
元気なら少し先へ進む。
天気が悪ければ停滞する。
体調が悪ければ予定を短くする。
本来、縦走ではそういう判断をしながら歩く。
でも宿泊予定が全部予約で固定されていると、その判断がしにくくなる。
安全のために予定を変えたいのに、予定を変えるとその後の予約が全部崩れる。
これは、けっこう大きい。
山の中で自由に動くためには、山に入る前にかなり細かく決めておかないといけない。
その矛盾みたいなものが、最近の夏山計画にはある。
夏山の計画は、楽しい。
でも、ただ楽しいだけではなくなってきた。
山小屋とテント場の予約を見て、少し現実に戻る。
その現実を見たうえで、それでも行きたいと思える山を選ぶ。
たぶん今の自分にとって、夏山の準備はそこから始まっている。

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